2017年9月18日月曜日

特定費用準備資金の留意点~公益法人

 行政庁から公益認定を受けた公益法人(公益社団法人又は公益財団法人)では(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)4条、2条3号)、一定の要件を満たした場合に限り特定費用準備資金を積み立てることができます。
 特定費用準備資金は公益法人独特の科目であり、わかりにくい面が多いですが、今回は、その積立時期と積立上の留意点を記載します。

1.特定費用準備資金の意義
 特定費用準備資金とは、将来の特定の活動の実施のために特別に支出する費用(事業費又は管理費として計上されることとなるものに限るものとし、引当金の引当対象となるものを除く。)に係る支出に充てるために保有する資金(当該資金を運用することを目的として保有する財産を含む。)をいいいます(認定法18条①柱書)。
 これは、会計上では資産ですが、収支相償(注1)や公益目的事業比率といった認定法上では費用とみなす、とするものです。
  以下に例を示します。

【設例】
  2年後に開始予定の新規事業のために特定費用準備資金50,000千円を流動資産の普通預金から振り替えて積み立てた。(単位:千円)

  会計上の仕訳は以下のとおりです。これは預金の振替仕訳なので、特に難しくはないと思います。

(借方)新規事業準備積立金 50,000 (貸方)普通預金 50,000

 このように会計上では単なる資産科目ですが(なお、貸借対照表では特定資産として計上します。)、公益法人の収支相償や公益目的事業比率の算定では、この50,000千円を「費用」とみなします。
 例えば、公益目的事業で40,000千円の黒字が出ていたとします。このままでは収支相償を満たせませんが、この特定費用準備資金を積み立てることで、40,000千円-50,000千円=△10,000千円となり、収支相償を満たすことができます。(注2)

注1:収支相償とは、公益目的事業では赤字を出さなければいけないという認定法の基準です(認定法14条)
注2:実際には、特定費用準備資金の取崩しや前期までの繰越金などを考慮することもあり、ややこしい面があるのですが、ここでは単純な例とします。

2.特定費用準備資金の積立時期
 それでは、この特定費用準備資金をどの時点で積立てる必要があるのか、という論点ですが、それは積立てようとする当該事業年度末日までです。
 そのため、例えば3月決算の公益法人であれば、平成29年度に特定費用準備資金を積立てたいと考える場合、平成30年3月31日までに積立てておく必要があります。平成30年4月1日以後の決算作業や決算承認理事会などでは、平成29年度の特定費用準備資金は積立てられないので注意が必要です。

 理由は、特定費用準備資金は会計上は資産ですから、事業年度末日の財政状態を示す貸借対照表に特定資産として計上する以上、当該事業年度末日までに積立てておく必要があるためです。
 事業年度末日後に積立てても、それは翌事業年度の特定費用準備資金です。
 これは、次の3も関係があります。

3.特定費用準備資金と銀行口座
 特定費用準備資金は、その資金の積立のために専用の預金口座を設ける必要があります。すなわち、一つの預金口座を、貸借対照表上で流動資産の預金と固定資産(特定資産)の預金に分けてはいけないということです。
 認定法では他の資金と明確に区分して管理されていること。」が特定費用準備資金の要件の一つとして掲げられています(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行規則(以下「認定法施行規則」)18条③Ⅱ)。

 なお、特定費用準備資金のために設ける預金は普通預金でも定期預金でもかまいません。一般的には普通預金のほうが、機動的に使用できるでしょう。毎期、頻繁に使用する特定費用準備資金であれば普通預金のほうがよいかもしれません。

 このように、特定費用準備資金を設けるためには、新たに預金口座を作り、そこに流動資産の普通預金から振り返る必要があります。
 そうなると、この振替は当該事業年度末日までに行わなければなりません。そうしないと、貸借対照表は事業年度末日の財政状態を示さなくなるからです。
 例えば4月下旬に特定費用準備資金を設けようと考えたとしても、事業年度末日までに預金の振替が行われていませんから、貸借対照表に特定資産として特定費用準備資金を計上することはできません。
 
 上記2で特定費用準備資金をその事業年度末日までに積立てる必要があるということが、この3に関係すると記載したのはこのためです。

 (注3)以上の論点は、内閣府に確認済みです。

4.月次決算の必要性
 このように、特定費用準備資金は当該事業年度末日までに計上しなければならないとなると、決算作業で公益目的事業の損益が明らかになった時点では手遅れとなります。
 そのため、事業年度末日までに、精度の高い決算見込を行う必要があります。
 そして、この決算見込を行うためには、毎月の月次決算を行うことが前提となります。

 月次決算を行い、決算月前に決算見込を行えば、公益目的事業の黒字額が概算で把握できますので、これをクリアできる額を特定費用準備資金として積立て、流動資産の普通預金から、専用口座に移すことができます。多くの場合、特定費用準備資金は比較的大きな金額となりますので、直前になって行うのではなく、数か月前から準備しておく必要があります。

 なお、特定費用準備資金の積立ては、決算月における事業計画承認を行う理事会で決議することが多くなると思います。この月のほうが、決算見込の数値がより明確になっているからです。

5.特定費用準備資金の計上要件
 最後に、特定費用準備資金を計上するためには、以下の5つの要件を満たす必要があるのでご確認ください(認定法施行規則18条③)。

  当該資金の目的である活動を行うことが見込まれること。
  他の資金と明確に区分して管理されていること。
  当該資金の目的である支出に充てる場合を除くほか、取り崩すことができないものであること又は当該場合以外の取崩しについて特別の手続が定められていること。
  積立限度額が合理的に算定されていること。
  第三号の定め並びに積立限度額及びその算定の根拠について事業報告に準じた備置き及び閲覧等の措置が講じられていること。

 このうち、三の特定費用準備資金に係る規程の作成は失念されている公益法人が多いのでご留意ください。規程の作成や理事会での承認にも時間がかかりますので、作成されていない法人は早急な整備が必要です。