社会福祉法の改正によって、社会福祉法人においても評議員会や理事会において決議の省略(いわゆる「みなし決議」)を行うことができるようになりました(社会福祉法(以下「法」)45条の9⑩、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)194条)、法45条の14⑨、一般法96条)。
決議の省略は、平成18年の会社法改正で株式会社に導入され、その後、公益法人にも導入されました。
この決議の省略ですが、法令上、提案内容に制限はありません。従って、決算の承認や役員の選任であっても提案できます。
ただし、建前と本音といいますか、実務上、決議の省略を行うには「不文律」のようなものがあります。
今回は、公益法人や社会福祉法人において、決議の省略を行っても差し支えがないケースについて記載します。
1.軽微な事項
上記のように、決議の省略の場合、提案内容に制限はないのですが、実務上は、全員が賛成できるような軽微な内容(例えば、定款の文言の一部修正など)が望ましいといわれています。
特に、社会福祉法人においては、一部の所轄庁でそのことを明確に指導しているようです。例えば、京都市では、5月に行われた社会福祉法人関係者向けの研修で、理事会の決議の省略について
「理事会における討議や理事からの説明を省略しても差し支えないような軽微な事項について行うことが適当です。」
と「社会福祉法人制度改革後の法人運営について」という資料の中で明記しています。
評議員会の決議の省略についても同様のことが記載されています。
公益法人においても、内閣府や都道府県の立入検査で指摘されたことはないのですが、公益財団法人公益法人協会の書籍の中では、全員が同意できるような提案内容が望ましい旨が記載されています。
従って、特に社会福祉法人は所轄庁の指導が強い傾向にあるので、決議の省略を行う場合は、提案内容は軽微な事項にするほうがよいでしょう。
2.代表理事や理事長が現職の知事、市長である場合
決議の省略を行っても差し支えがないケースとしては、個人的には、代表理事(公益法人の場合)や理事長(社会福祉法人の場合)に現職の知事や市長が就任しているケースがあげられると考えています。
現職の知事や市長がトップに就任している法人は、外郭団体的な公益法人や社会福祉法人で散見されますが、このような法人では、代表理事や理事長は公務が忙しいため、理事会を開催しても欠席という場合が多くなります。もちろん、理事の一人が欠席しても定足数を満たせば理事会は成立するのですが、理事会のトップが常に参加しない理事会というのは、理事会のあり方として望ましくないといえます。
なお、社会福祉法人では、社会福祉法改正により「書面出席」は認められなくなったので注意が必要です。理事会は本人が出席することが必要であり、持ち回り決議や書面決議は認められません。理事は法人とは委任の関係にあり、そのような理事が実際に集まって理事会において、十分な討論を行うことが必要だからです。
そこで、このような法人では、決議の省略による方法がむしろ有効であるといえます。決議の省略では、理事全員の同意が必要なので、代表理事や理事長も書面や電子メールなどではあるものの、内容に目を通し、同意の意思表示を行うので、参加はしたことになります。
実際、現職の知事等が代表理事に就任している公益法人では、理事会の多くを決議の省略で行っているというところもあります。
なお、代表理事・理事長、業務執行理事は、自己の職務の執行の状況を報告する必要があることから、全ての理事会を決議の省略による方法で行うことはできないので注意が必要です。
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