2017年7月5日水曜日

満期保有目的の債券

 私が担当した上場会社では、満期保有目的の債券を保有している会社はなかったと記憶しています。先輩に聞いても満期保有目的の債券には出会ったことがない、という人が多かったです。
 もちろん、EDINETで検索すれば、満期保有目的の債券を保有している有価証券報告書提出会社はいくつもありますが、個人的には実務上あまり馴染みがないという印象です。
 しかし、公益法人や社会福祉法人では満期保有目的の債券はよく見かけます。対象となる債券は、国債や地方債が多いです。

 そこで、今回は、満期保有目的の債券について、金融商品会計基準(以下「基準」)及び金融商品会計に関する実務指針(以下「実務指針」)にそって、一般的な留意点を記載します。
 公益法人会計、社会福祉法人会計においても、満期保有目的の債券の取扱は基本的にこのスタンスです。(注:公益法人会計基準等、社会福祉法人会計基準等にもそれぞれ規定がありますのでご確認ください。今回は一般論として記載します。)

1.会計処理
 満期保有目的の債券は、取得原価をもって貸借対照表価額とします。
 ただし、債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としなければならない、とされています(基準16)。

 ここで、償却原価法とは、金融資産又は金融負債を債権額又は債務額と異なる金額で計上した場合において、当該差額に相当する金額を弁済期又は償還期に至るまで毎期一定の方法で取得価額に加減する方法をいいます(基準注5)。
 この場合、当該加減額を受取利息又は支払利息に含めて処理します。
 この償却原価法には利息法定額法があります。原則として利息法によりますが、継続適用を条件として、簡便法である定額法を採用することができます(実務指針70)。

2.よく見られる誤り
 公益法人、社会福祉法人においては、債券金額より低い価額で取得した満期保有目的債券について償却原価法を適用せず、取得時の金額のままとなっている法人がよく見られます。取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは償却原価法を適用しますので留意が必要です。
 なお、利息法は難しいので、定額法を採用すればよいと思います。

3.設例と仕訳例
 以下では、定額法について簡単な設例による仕訳例を示します。

【設例】
 当社は3月決算の会社である。当社は✕1年4月1日に地方債を9,500で取得した。額面は10,000であり満期は✕6年3月31日である。クーポン利子率は2%とし、利払日は3月末日のみとする。取得価額と額面との差額は、全て金利の調整部分である。この地方債は満期まで保有する意図を持って保有するものである。

(1)取得時
(借方)投資有価証券 9,500 (貸方)現金預金 9,500

(2)決算日
(イ)クーポン分
 (借方)現金預金 200 (貸方)有価証券利息 200

 10,000✕2%✕12/12=200

(ロ)償却原価法
 (借方)投資有価証券 100 (貸方)有価証券利息 100

 (10,000-9,500)✕12月/60月=100

 
 最後に、満期保有目的の債券については、(A)満期保有目的の債券とするための要件、(B)満期前に売却した場合、(C)時価評価としない理由、(D)減損を行った場合、(E)外貨建の場合、などの論点がありますが、別の機会に記載したいと思います。