2018年4月3日火曜日

一般債権に係る貸倒実績率の算定

1.一般債権の貸倒見積高の算定
 金融商品会計基準(以下「基準」)27項では、貸倒見積高の算定にあたって、債務者の財政状態及び経営成績等に応じて①一般債権、②貸倒懸念債権、③破産更生債権等、の3つに区分しています
 このうち、一般債権とは、経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権をいいます(基準27項)。
 この一般債権については、債権全体又は同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準により貸倒見積高を算定する、とされています(基準28項)。
 今回は、この「貸倒実績率等」とされているうちの「貸倒実績率」の算定方法について、留意点を記載します。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.貸倒実績率法
 貸倒実績率は、ある期における債権残高を分母とし、翌期以降における貸倒損失額を分子として算定する、とされています(金融商品会計に関する実務指針(以下「実務指針」)110項)。
 すなわち、「翌期以降における貸倒損失額÷ある期における債権残高」となります。
 このように算定した貸倒実績率を債権金額に乗じ、貸倒見積高を算定します。
 
3.個別引当による貸倒引当金繰入額
 この分子の貸倒損失額の範囲ですが、まず実際に貸倒れた債権にかかる損失額が入ります。これは文字通りなので問題はないと思います。
 しかし、この分母の翌期以降における貸倒損失額に、貸倒懸念債権や破産更生債権等に係る個別貸倒引当金繰入額を含めて計算するのかどうかという問題があります。
 この点について、金融商品会計に関するQ&A(日本公認会計士協会会計制度委員会 以下「Q&A」)では、Q41で「貸倒実績率の算定において、分子の貸倒損失額に、個別引当による貸倒引当金繰入額を含めてもよいでしょうか。」というQが出ています。
 これについて、このQ&Aでは、まず、このような貸倒引当金繰入額は見積もりである以上、まだ損失として実現していないことなどの理由から実務指針上では、貸倒実績率の算定上分子に含めるかどうか明確ではない、としながらも、

「しかし、専門家による評価など十分に精度の高い担保及び保証の回収見込額に基づいて引き当てられているものや、損失として早々に実現する可能性が高いものについては、これを貸倒実績率の分子に含めて算定することは差し支えなく、また、それが実態をより反映することになるものと考えられます。

 という回答を記載しています。
 このQは「含めてよいか」という質問なので、一定のものについては「含めても差し支えはない」という回答になっています。

4.個別引当による貸倒引当金繰入額は含めなければならないのか
 気になるのは、それでは一定の個別引当による貸倒引当金繰入額は分子に含めなければならないのかどうか、という点です。
 この点については、上述のように「含めなければならない」とは記載していません。
 しかしながら、「それが実態をより反映することになるものと考えられます。」と記載されていることから、「含めなければならない」と記載はされていないものの、「含めることが望まれる」というニュアンスに読み取れます。
 では、実務上はどうかというと、私の経験上、そもそも、このQ&Aの存在を知っている会社は多くはないという印象です。そのため、会社の計算で、個別引当による貸倒引当金繰入額を分子の貸倒損失額に入れている会社は多くはないです。
 一方、財務諸表監査を行う経験豊富な公認会計士は、このQ&AのQ41を根拠に、分子の貸倒損失額に、この個別引当による貸倒引当金繰入額を入れる必要があるという主張をしてきます。
 その結果、会社側も概ね「確かにそうだ」ということで、最終的には、監査サイドの主張を受け入れ、分子の貸倒損失額に個別引当による貸倒引当金繰入額を含めて、貸倒実績額を計算するという流れになることが多いようです。
 だからというわけではありませんが、結論としては、一定の個別引当による貸倒引当金繰入額は、実態を適切に反映するために、分子の貸倒損失額に含める必要がある、というのが妥当ではないかと思います。