2019年4月7日日曜日

2018年度(平成30年度)修了考査~合格率急落の理由を推測すると・・・

1.対受験者数合格率56.1%
 平成31年4月5日(金)に、修了考査の合格発表がありました。
 修了考査とは、公認会計士試験に合格し、補習所を卒業した公認会計士試験合格者が受験する試験です。この修了考査に合格しないと公認会計士として登録できません(他に、登録の要件として実務要件があります。)
 今回の合格発表で驚いたのは合格率です。日本公認会計士協会のサイトによると対受験者数合格率が56.1%となっていました。(ちなみに、対受験願書提出者数合格率は51.8%)
 これは驚きました。なぜかというと、修了考査の対受験者数合格率は10年以上、70%前後で推移していたからです。
 ちなみに、平成29年度は69.3%だったので13.2ポイントの大幅な下落となりました。
 しかしながら、当然ではありますが、日本公認会計士協会からは合格率が大幅に下落した理由については一切コメントはありません。
 そこで、今回は合格率が急落した理由を推測してみようと思います。なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.税理士会へのアピール?
 完全な推測なので、保証はありませんが、この合格率の急落を見て、私が最初に思ったのは、税理士会へのアピールではないかというものです。すなわち、税法ができない人は合格させていませんよ、ということではないかということです。
 とはいっても、何のことか不明の方も多いと思いますので、まず、日本公認会計士協会と日本税理士会連合会との関係の歴史を簡単に書きます。

3.業際問題
 税理士になるには、まず税理士試験を合格する必要があります(税理士法3条1項1号)。
 しかしながら、公認会計士は、税理士試験に合格しなくても、税理士法3条1項4号により、自動的に税理士となる資格を有することになり、所定の手続きを経て税理士登録をすると、税理士として業務を行うことができます。すなわち、試験を受けなくても税理士になることができます。
 これに対して、6~7年前でしょうか、日本税理士会連合会が「公認会計士も税理士試験の税法科目に合格しなければ税理士登録できないようにすべき」と主張し始めました。これは、当時、公認会計士試験合格者数が大幅に増加していたため、公認会計士による税理士登録者が大幅に増加することによる警戒感があったものと思われます。
 この問題はそれ以前にも、昔から度々発生した論点なのですが、このときは税理士会がかなり強行だったため、お互いが新聞広告を出すなど、かなり泥沼化していました。
 しかし、最後は日本公認会計士協会による主張で手打ちになりました。

4.国税審議会における実務補習の指定
 このとき、日本公認会計士協会にとって大きかったのは、補習所で税法の講義を行っていることでした。公認会計士の場合は、公認会計士試験に合格してもすぐに会計士登録はできず、補習所の講義の受講と定期考査をパスして卒業する必要があります。これは我が国の公認会計士制度において長く行われてきた制度です。
 当時の業際問題では、この補習所の実績が評価されたと聞いています。そこで、最終的には、税理士法を改正することにより補習所の講義を国税審議会が指定する研修とすることなどにより決着しました。
 日本公認会計士協会のサイトから一部引用すると、以下のとおりです。

「平成29年4月1日以後に公認会計士試験に合格した者のうち税理士資格を取得できるのは、公認会計士法第16条第1項に規定する実務補習団体等が実施する研修のうち財務省令で定める税法に関する研修を修了した者とされるとともに、当該研修は、改正税理士法施行規則第1条の3第1項において国税審議会が指定する研修とされました。」

「 なお、実務補習規程等の関係規程の改正の主なポイントは、以下のとおりです。
・実務補習の充実策の一環として、監査科目だけではなく、税法科目も重要な科目と位置付け、考査の合格基準について従来の税法科目の考査2回で各回4割以上の取得に加え、税法科目全体で6割以上の取得を設ける。
・税法科目の考査2回については全国統一問題で同一日時に実施する。
・実務補習の考査及び修了考査の問題をウェブサイトで公表する。」

 なお、「平成29年11月1日以後に実務補習所に入所する補習生(再入所を含む。)から適用」するということです。

 一方、日本税理士会連合会のサイトでも同じ内容が記載されていますが、考査と修了考査については以下のことも記載されています。

「考査及び修了考査の試験問題の過去5年分が公開され、研修運営状況が国税審議会に定期的に報告されることともされており、税理士試験との同等性等について継続的に確認されていくことになります。」

5.税理士試験との同等性
 要するに、補習所の税法の考査と修了考査の税法試験については、税理士試験と同じレベルである必要がある、ということですが、今回の修了考査もこれが背景にあったのではないかと私は推測しています。
 平成30年度の修了考査を受験する公認会計士試験合格者は、主に平成27年合格の人になると思いますので、上記の税理士法改正の影響は受けてはいません。しかしながら、国税審議会における実務補習の指定制度が平成30年から本格的に始まっていますので、今回の修了考査も、制度開始元年の試験にあたるといえばあたります。
 修了考査の税法試験も税理士試験と同じレベルであるとするならば、合格する人も、税理士試験を合格するレベルの人とする必要があります。となると、必然的に採点も厳しくなると思います。
 もともと、修了考査の税法は問題量が無茶苦茶多く、とても制限時間内で完答できるレベルではないものです。試験時間は3時間ですが、4時間分の問題量があると言われています。
 従って、受験者の税法の点数はあまり高くないはずですが、最終的には総点数の60%を基準として修了考査運営委員会が相当と認めた得点比率が合格基準となっていますので、必ずしも税法の点数が芳しくなくても、合格は可能です。また、おそらく総点数の60%を満たしている受験生も多くはないと思いますので、最終的には相対評価で合格を決めているものと推測されます。
 ただし、「満点の40%に満たない科目が1科目でもある場合は、不合格となることがあります。」とされています。いわゆる足切りです。
 修了考査も税理士試験と同じレベルという建前となった現在、前回までよりは、採点を厳しくした可能性があります。もしかしたら、これまでよりも足切りが多くなったのかもしれません。
 このように、今回の修了考査の合格率の大幅な下落は、税法科目の採点が厳しくなり、税理士試験に合格できないレベルの受験生は合格させていませんよ、という税理士会へのアピールではないかというのが私の推測ですが、もちろん、何があったのかは不明ですし、真相は闇の中です。
 いずれにしろ、税法科目は計算が多く、差がつきやすい科目なので受験される方は、しっかりと勉強する必要があります。