2018年1月28日日曜日

減損の兆候とその判断過程~減損会計

1.減損会計の目的
 減損会計の目的は、簡単にいうと、事業用の固定資産の収益性が低下した場合、資産の回収可能性を帳簿価額に反映させるため、といえます。すなわち、取得原価基準のもとで帳簿価額を臨時的に減額させる会計処理であり、時価評価ではないことに注意する必要があります。
 今回は、減損会計の適用の要否の検討を行う作業のうち、減損の兆候とその判断過程について記載します。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.減損会計の適用の要否の検討
 減損会計は、グルーピングされていることを前提として、次の順序に従って、それぞれの資産又は資産グループについて、その適用の要否を検討します。

 ①減損の兆候の有無の判定
 ②減損損失の認識
 ③減損損失の測定

 減損会計は上記の通り、まず①減損の兆候の有無を判定することから始めます。この①の段階で減損の兆候がなければ、②以降には進みません。すなわち、減損会計の適用はありません。
 この減損の兆候の有無の判定は、決算期はもちろん、各四半期においても行う必要があります(中間決算適用の会社は中間期)。
 減損会計が導入された頃は、四半期決算においても上記①~③のステップを踏む必要があることが認識されていない企業も見られました。そのため、四半期レビューにおいて「減損会計の適用の要否を検討した資料をご提示ください。」と依頼すると、「減損は前期に行いましたよ。何でまた減損を行わないといけないのですか。」といった回答が結構ありました。
 もちろん、これはクライアント側の認識誤りです。減損会計を適用することになるかどうかは上記①から順番に判定していかないとわかりません。上述の通り、①または②の段階で要件に当てはまらなければ、③には進みません。すなわち、減損会計の適用はありません。
 そのため、手続として、まず①減損の兆候の有無の判定を四半期においても必ず行う必要があります。前期において減損会計を適用した場合であっても、当期の第1四半期で、さらに減損会計の適用となる場合もあるかもしれません。
 なお、「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」14項では、
「四半期会計期間における減損の兆候の把握にあたっては、使用範囲又は方法について当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化を生じさせるような意思決定や、経営環境の著しい悪化に該当する事象が発生したかどうかについて 留意することとする。」
 とされています。
 会計基準には適用要件がありますので、適用要件にあてはまるのかどうかを順番に検討していく必要があります。
 
3.減損の兆候
(1)意義と趣旨
 減損の兆候とは、減損が生じている可能性を示す事象をいいます(固定資産の減損に係る会計基準(以下「基準」四2(1))。
 基準では、減損の兆候がある場合に、資産又は資産グループについて、減損損失を認識するかどうかの判定を行うこととしていますが、これは、対象資産すべてについてこのような判定を行うことが、実務上、過大な負担となるおそれがあることを考慮したためとされています(基準四2(1))。

(2)減損の兆候の例  
 それでは、どのような事象が減損の兆候となるのかという点ですが、これについては企業会計基準委員会による「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(以下「適用指針」)12項から17項に例示が掲載されています。
 
 (イ)営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合
 (ロ)使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合
 (ハ)経営環境の著しい悪化の場合
 (ニ)市場価格の著しい下落の場合
 (ホ)共用資産の減損の兆候
 (ヘ)のれんの減損の兆候
 
 このうち、(ホ)と(ヘ)は共用資産ないしのれんを含むより大きな単位で減損損失を認識するかどうかの判定を行うことから、まずはそれぞれの資産又は資産グループについては、(イ)~(ニ)について検討を行っていくことになります。
 まとめると、各資産又は資産グループについて、主に(イ)~(ニ)について判定し、共用資産やのれんがある場合は、それらを含むより大きな単位で判定するという順序となります。
 ただし、上述の通り、これらは例示なので、減損の兆候については他の事象も考えられます(適用指針76項参照)。また、必ずしも画一的に数値化できるものではないことから、状況に応じ個々の企業において判断することが必要である旨も適用指針77項において示されています。
 従って、(イ)~(ヘ)を主な判断基準として、総合的・実質的に判断していくことが必要です。

(3)総合的な判断
 このように、減損の兆候は総合的・実質的に判断していくことになりますが、これは各資産又は資産グループについて(イ)~(ニ)についてどれかに当てはまっていなければ減損の兆候はなし、と判断するのではなく、(イ)~(ニ)などをすべて勘案して判断していくことになるということです。
 減損の兆候については、特に(イ)の「営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合」について重点的に考慮されることが多いのではないかと思います。この部分は数値基準により判断がしやすいからです。しかしながら、この要件に当てはまっていなくても、例えば、その資産又は資産グループを構成する事業を近い将来に売却するという意思決定が行われていれば(ロ)に該当しますので、減損の兆候はあるものと判断されることになります。

(4)判定資料の作成
 最後に、減損の兆候の有無の判定を行った場合は、その判断過程を文書化して客観的に分かるようにしておく必要があります。
 方法としては、いろいろと考えられますが、例えば、フローチャートのような形にして、適用指針12項から17項に当てはまるかどうかを順番に判断していくという方法も考えられます。