1.概要
我が国の公益法人(公益認定を受けた公益社団法人又は公益財団法人をいいます(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)2条①②③)は3月決算の法人が多いですが、3月決算の公益法人は翌事業年度の開始の日の前日である3月末日までに事業計画書等を行政庁に提出しなければいけません(認定法22条①)。
今回は、事業計画書等の提出についての留意事項を記載します。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.提出書類
提出書類としては、まず、①事業計画書、②収支予算書、③資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類(認定法21条①、22条①、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行規則(以下「認定法施行規則」)27条)が必要です。
また、①~③の書類について④理事会等の承認を受けたことを証する書類(議事録(写し))も提出します。
3.提出書類に係る留意点
(1)事業計画書
事業計画書については、その事業年度に実施予定の事業を具体的に記載します。事業計画書については特に大きな留意点はないですが、公益認定を受けていない事業を新規事業として記載しないようにする点には注意する必要があるでしょう。従って、新規事業が、現在、公益認定を受けている公益事業の範疇であるかどうかを確かめる必要があります。
(2)収支予算書
収支予算書については、2点留意事項があります。
①損益計算ベースによること
法令上では「収支予算書」となっており、名称に「収支」とついていますが、発生主義に基づいた損益計算ベースで計算した予算書である必要があります。
この点については、旧制度から携わっておられる方からよくご質問を受けますが、上述の通り、この予算書は収支ベースではありません。従って、減価償却費や退職給付引当金繰入額といった発生主義による会計数値も予算の額として反映させる必要があります。
②内訳書も提出すること
また、この収支予算書については、公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計に区分された内訳書も提出する必要があります。
法令では、「収支予算書」としか書かれていませんが、内訳書も忘れずに提出することに注意が必要です。
(3)資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類
「資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類」については、公益法人インフォメーションから提出する場合には、当該書類も直接入力の書類としてセットになっていますので、提出自体を失念することはないと思います。(作成されていないと、送信時にエラーメッセージが出たと思います。)
しかしながら、この書類に関する留意点は、理事会等での決議にあります。すなわち、この資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類についても、その内容を審議し、理事会等において承認を得る必要があるということです。そのため、理事会等においては、公益法人インフォメーションに掲載されている様式を作成のうえ資料として配付し、議案として掲げて、理事会等の決議を経る必要があります。
(4)理事会等の議事録(写し)
①事業計画書、②収支予算書、③資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類は理事会の決議により承認を得ることになります(社員総会又は評議員会の承認を受ける法人もあります。)
行政庁には、この理事会の議事録(写し)も提出します。社員総会又は評議員会の承認を受けた場合はその社員総会議事録又は評議員会議事録も必要となります。
この理事会等の議事録ですが、例えば、理事会について、議事録には出席した理事及び監事が署名又は記名押印するとしている場合(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)95条③)、理事及び監事の人数が多いと、議事録への署名又は記名押印が期末日までに間に合わないケースがあります。実際に、理事が数十人いる公益法人も珍しくありません。議事録の署名又は記名押印については容認の方法もあるのですが(定款で定めることにより、代表理事と出席した監事による署名又は記名押印とする方法)、各理事が自分の目で議事録を確かめたいという法人もあり、原則の方法を採用している法人も結構存在します。
このように議事録の署名又は記名押印について、提出期限までに間に合わない場合は、理事及び監事の署名又は記名押印を行っていない仮の状態でいったん行政庁に提出してください。そうすれば、期限内の提出となります。
ときどき、理事及び監事全員の署名又は記名押印を待って、期限後に事業計画書等を提出されている法人がありますが、これだと法令違反になります。上述のとおり、公益法人は毎事業年度開始の日の前日までに行政庁に提出しなければならない、とされているからです(認定法22条①)。
特に、公益法人インフォメーションでは、理事会等の議事録が添付されていないとエラーとなり送信できませんので、理事及び監事の署名又は記名押印が間に合っていない場合は、いったん、署名又は記名押印が行われていない議事録を添付して提出を完了させてください。
そして、理事及び監事の署名又は記名押印が終了したら、行政庁に連絡をして補正の依頼を行ってください。この補正により、署名又は記名押印済みの議事録に差し替えて、事業計画書等の提出を行えば完了です。
なお、この補正は、行政庁によって対応は異なります。公益法人インフォメーションから補正提出するという正式なケースもあれば、「こちら(行政庁)で差し替えておきますのでメールで送ってください」というケースもあります。いずれにしろ、行政庁側もこの点は状況を理解されていますので、くれぐれも法令違反とならないようご注意ください。
4.備置きおよび閲覧
①事業計画書、②収支予算書、③資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類については、その事業年度開始の日の前日までに主たる事務所に、また、その写しを従たる事務所に備え置かなければならず(認定法21条①)、さらに、閲覧の請求に応じなければなりません(認定法21条⑤)。
このうち③については失念しやすいので注意が必要です。上記3(3)で、資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類を作成する必要性を記載したのはこのためでもあります。従って、必ず、公益法人インフォメーションに掲載されている様式で当該書類を作成して備置きをするようにしてください。
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