連結キャッシュ・フロー計算書の作成方法には原則法と簡便法があります。
原則法とは、親会社及び連結子会社が作成した個別キャッシュ・フロー計算書を単純合算し、相殺消去や科目の振替といった連結修正を行って、連結キャッシュ・フロー計算書を作成する方法です。
一方、簡便法とは、連結損益計算書並びに連結貸借対照表の期首残高と期末残高の増減額の分析及びその他の情報から作成する方法です(日本公認会計士協会・連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針(以下「実務指針」)47項)。
現行制度において規定されている会計基準は、旧大蔵省時代の企業会計審議会が策定した「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」(以下「作成基準」)です。
実務指針47項にも記載がありますが、作成基準では第二の三で「連結キャッシュ・フロー計算書の作成に当たっては、連結会社相互間のキャッシュ・フローは相殺消去しなければならない。」と規定されています。この規定があるため、制度上は、原則法という言葉は使用していないものの、各連結会社の「キャッシュ・フロー計算書」を連結する方法(原則法)を原則としていると考えられています。
しかしながら、実務指針では簡便法も認められるとしています。そのため、連結キャッシュ・フロー計算書の作成実務においては、原則法と簡便法の2つが認められているというわけです。
整理すると、以下の関係になります。
・作成基準(企業会計審議会) →原則法
・実務指針(日本公認会計士協会)→原則法の他、簡便法も認められる
なお、多くの会計基準や実務指針は、企業会計基準委員会(ASBJ)に移り、企業会計基準や企業会計基準適用指針となったのですが、連結キャッシュ・フロー計算書については、会計基準や実務指針が、まだASBJに移っていない状態です。
3.「簡便法」が原則と思っている人が多い?
以上のように、連結キャッシュ・フロー計算書の作成方法には原則法と簡便法があるのですが、結構、「簡便法」が原則的な方法と思われている方が多くいらっしゃいます。
ときどき、公認会計士の中にもこのような思い違いをしている人がいます。
しかしながら、あくまで、各連結会社が作成した個別キャッシュ・フロー計算書を連結する方法が原則です。
【図1】(C/S…Cash Flow Statement)
とはいえ、会計実務では原則法よりも簡便法が使用されることが圧倒的に多いです。
理由は、簡便法のほうが作成しやすいですし、作成時間も原則法よりも短くてすむからです。
原則法だと、まず、すべての連結会社が個別キャッシュ・フロー計算書を作成しなければなりません。親会社では当然、個別キャッシュ・フロー計算書を作成しますが、連結子会社のすべてが個別キャッシュ・フロー計算書を作成するとなると、結構面倒です。
有価証券報告書の作成義務がある会社であれば、個別キャッシュ・フロー計算書を作成しますが、それ以外の会社になると、個別キャッシュ・フロー計算書の作成義務はありません。そのため、個別キャッシュ・フロー計算書の作成義務がない会社でもキャッシュ・フロー計算書を作成するとなると、時間と手間がかかりますし、精度も必ずしも高くはないかもしれません。会社によってはキャッシュ・フロー計算書の作成能力が乏しい会社もあります。
このような理由から、まず、連結会社が個別キャッシュ・フロー計算書を作成するのに時間と手間がかかってしまいます。
そして、次の段階では、個別キャッシュ・フロー計算書を単純合算した後、相殺消去や科目振替といった修正仕訳を反映しなければなりません。これは直接法であっても間接法であっても同じです。従って、ここでも時間と手間がかかります。
しかしながら、簡便法であれば、すでに作成した連結損益計算書、連結貸借対照表、連結株主資本等変動計算書を使って作成できますので、原則法と比較して時間と手間は大幅に削減できます。
このような理由から、実務上は原則法よりも簡便法を適用する会社の方が多いというわけです。
簡便法しか知らない、という方も多いかと思いますが、実は簡便法は容認規定であることを知っておく必要があります。