2018年11月25日日曜日

公認会計士試験・条文の表示方法~「項」や「号」の記載

1.「出題の趣旨」
 先日、平成30年公認会計士試験論文式試験の合格発表がありました。
 現在の試験制度では、「出題の趣旨」公認会計士・監査審査会から公表されています。
 「出題の趣旨」は、問題を出題した試験委員が、出題の内容、出題の目的、答案記載上のポイントなどを記載したものです。
 どちらかというと、答案記載上のポイントはあまり書かれておらず、出題の内容、出題の目的に記載されたものが多くなっています。そのため、受験生はあまり「出題の趣旨」を読んでいないようなのですが、「出題の趣旨」は試験委員が記載したものであり、専門学校が介在していない直接的な情報なので、合格するためには、読んでおくことが望まれます。
 今回は、平成30年公認会計士試験論文式試験の「出題の趣旨」から個人的に気になったところをあげてみたいと思います。
 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.条文の表示
(1)「項」、「号」の記載
 租税法のコーナーですが、「解答にあたっては、適用条文の正確な理解及び表示(必要に応じて「項」、「号」まで)が求められる。 」という記載がなされていました。

 これは非常に気になりました。試験委員がこのような記載をするということは、条文をしっかりと記載していない受験生がいる、ということです。
 この記載によれば「項」、「号」を記載していない受験生がいるのだと思います。「項」や「号」を示すことはとても大事です。同じ「○条」でも「項」や「号」によって内容は異なるからです。
 これは租税法だけでなく、会社法でも同様です。

(2)「項」や「号」を示さないとどうなるか
 例えば、会社法の場合ですが、監査役の取締役会への出席義務を記載するとき、

「監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない(会社法383条1項)。」

 と書くべきですが、仮に、

「監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない(会社法383条)

 と書いてしまうと、どの条文を示しているのかが不明になってしまいます。というのは383条は1項から4項までありますが、1項には監査役の取締役会への出席義務が定められているのに対して、2項は、監査役の取締役会招集請求権について記載されています。3項は一定の場合における監査役による取締役会招集権、4項は特別取締役による取締役会の場合の不適用についての定めです。
 「383条」だけだと1項から4項までを含んでいることになり、どの項の条文であるのかがわかりません。従って、「383条1項」と明示する必要があるわけです。

 「号」についても同様です。
 例えば、株式会社の商号については、

「株式会社の商号は登記事項である(911条3項2号)。」

 と書くべきですが、仮に

「株式会社の商号は登記事項である(911条)。」あるいは「株式会社の商号は登記事項である(911条3項)。」と書いてしまうと、どの911条のどの部分を示しているのかがわからなくなります。

 このように、「項」や「号」が記載されていないと、どの条文を示しているのかが不明になります。従って、答案としては条文を示していない、すなわち法律要件を示していないということになってしまいます。そうなると、十分な点数がつかない、あるいは、全く点数がつかないということになります。(私見ですが、この場合、全く点数がつかない可能性が高いと思います。)
 このようなことになってしまっては、これまでの努力が水の泡となってしまうので、答案を書くときは普段の答案練習の時から慎重に行うことが重要です。

3.条文番号の表記
 それに加えて個人的に気になっているのが、条文番号の表記です。
 お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、拙著「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」(中央経済社)当ブログでは、例えば、

「理事長が欠席した場合でも、定足数を満たしていれば理事会は成立します(法45条の14④)。」
「この報告を行う趣旨は、理事会による理事長および業務執行理事に対する職務の執行の監督を機能させるためです(法45条の13②二)
 
 といったように「項」は丸で囲った書き方で書いています。また、「号」は漢数字が多く、時々ローマ数字で書いています。

 しかしながら、本来は例えば「法45条の13第2項2号」といった書き方をすべきです。

 では、なぜ拙著や当ブログではこのような書き方になっているのかというと、理由は以下のとおりです。
 実は、拙著「「社会福祉充実計画」の作成ガイド」(中央経済社)を執筆しているとき、私のもともとの原稿では「法○条○項○号」といった記載をしていたのですが、1回目の校正のとき、中央経済社様から「項や号は、①にするなど、略して記載してください。」という要請があったためです。
 従って、このような記載をしているというわけです。

4.「第」はつける必要があるか
 次に、「第…項」といったように「第」までつける必要があるのかという点ですが、これは「出題の趣旨」の会社法のコーナーが参考になります。
 一部を引用してみます。

(イ)「本件債権の弁済期が到来していれば、現物出資財産の価額(会社法 199 条1項3号)は当該債権に係る負債の帳簿価額(券面額)と同額に定められているから、会社法 207条9項5号により、同条の手続は不要である。」

(ロ)「また、Aは当該出資の履行の仮装に関与した取締役に当たり、そのことについて職務を行うについて注意を怠らなかったとはいえないから、Aも甲会社に対して責任を負い(会社法 213 条の3第1項)、BとAの責任は連帯する。 」

 これらを見ると、基本的には「第」は不要ですが、一部で必要なときがあります。 
 それは、(ロ)のように、条の部分が「…条の…」となっている場合です。この場合、「第」をつけないと、「213条の3 1項」といったように数字が続いてしまい、わかりにくくなります。この場合だと「213条の31」と見えてしまうかもしれません。従って、このような場合は「第」をつけると読みやすくなります。

 なお、私の記憶では、会社法でこのような条文の書き方がされたのは、弥永真生教授の「リーガルマインド会社法」(有斐閣)ではなかったかと思います。勝手な推測ですが、このテキストを書くときも出版社から「条文は省略して書いてほしい」と言われたのではないかと思います。
 しかしながら、試験委員も務められた著名教授の本がこのような記載をしているといっても、条文の略書はしない方がよいと思います
 
5.まとめ
 条文は「○条○項○号」といった記載をして、法律要件をしっかりと示すことが重要です。そのためには、普段からテキスト・参考書よりは、条文を読むほうがよいです。
 以上、参考としていただけますと幸いです。