1.概要
今回は組織化を行うための手段として伝統的組織論に基づく管理原則を紹介したいと思います。
この管理原則は、集団を組織として機能させるためには、押さえておくべき基本原則です。組織化が行われていない、あるいは組織化が不十分な会社等はこの管理原則に不備が見られることが非常に多いです。
管理原則にはいろいろなものがありますが、ここでは数回にわたって(1)命令一元化の原則、(2)専門化の原則、(3)スパン・オブ・コントロール、(4)権限責任一致の原則、(5)階層化の原則、(6)権限委譲の原則、をあげてみたいと思います。
2.命令一元化の原則
(1)意義
命令一元化の原則とは、部下は直属の上司一名から命令や指示を受けるべきであるとする原則です。
なぜかというと、部下が複数の上司から命令や指示を受けると、部下が混乱するからです。具体例を上げると、二人の上席からそれぞれ期限のある仕事をふられると、ふられた部下としては、2つも同時に期限のある仕事を進めることは困難となりどうすればよいのか困ってしまいます。
また、A部長とB部長とで主張が異なるというケースもあります。そうなると部下はどちらの方針で行動すればよいのかわからなくなってしまいます。
このように、複数の上司から命令や指示を受けると、部下が混乱してしまい業務を効率的に行うことが困難となってしまいます。これは、結果として組織全体の業務効率が落ちることにつながります。
従って、部下は直属の1名の上司から命令・指示を受ける体制とすることを原則とする必要があります。
なお、命令一元化の原則は絶対的なものではなく、ファンクショナル組織やマトリックス組織のように、複数の上司により命令・指示が出るという組織もあります。
(2)命令一元化の原則確立の方法
組織化がうまく行っていない会社等ではこの命令一元化の原則が取り入れられていないケースが多く見れらます。これは階層化の原則や権限委譲の原則にもつながるのですが、職務権限規程に基づいた指揮命令系統が確立されていないことが原因です。
そのため、例えば、スタッフが課長から指示を受けて行ったことが、翌日部長にひっくり返されて、また仕事を一からやり直さなければならないといった理不尽なことが起きてしまいます。
命令一元化の原則を確立するには、職務権限規程と組織図をしっかりと作り、指揮命令系統を具体的に定めるとともに、上の人間や他の部署の人間が権限を無視して口出しをしないという組織風土を醸成することも必要です。
そのためには、トップの役割が重要となります。このような組織風土は、役員や従業員任せではなかなか形成されません。役員や従業員の多くは、現状を変えることに抵抗があるためです。そのため、トップは現状の組織風土を破壊する意気込みでドラスティックに改革を行う必要があります。
3.専門化の原則
(1)意義と効果
専門化の原則とは、業務を細分化し、その細分化した業務について専門的に行うこととする原則です。
専門化については、業務プロセスを細分化し、ひとつひとつの作業を単純化することから始まります。これは「組織化の理論と実務(3)」で触れた業務の標準化につながります。このように標準化された各業務を特定の人間が行うことが専門化となります。
具体例をあげると、営業であれば営業を、経理であれば経理を、法務であれば法務を、といったように会社の業務を細分化してそれぞれの業務について専門的に業務を行うということです。
このように、特定の業務を専門的に行うと、経験値が高まり業務のスピードが高まります。また、長い期間、専門的に行うため、その業務に対する深度も増します。その結果、組織全体として業務の効率化が進みます。
(2)中小企業における問題点
一見すると、専門化の原則は当然のように思われるかもしれませんが、この専門化の原則が取り入れられていない会社等は実は多く見られます。特にいわゆる中小企業では、その傾向が強く見られます。
例えば、管理部という部署があり、その下に総務課、経理課といった課を組織上は設けているのですが、実際は経理課の職員が総務の業務も行っていたり、管理部長が営業も行っていたり、というケースが見られます。
これは中小企業では人が少ないことが原因なのですが、一方で、トップの意識に問題があることが原因と思われるケースも多く見られます。すなわち、トップが「管理系の人間は売上に貢献していないのだから、そんなに人を置く必要はない。」と考え、管理系の業務の人員を極端に少なくしているケースがあるのです。そのため、管理系の人員が不足し、経理の人が総務も行うということが起こってしまうわけです。
これでは、専門化が実現できません。例えば、経理の人は経理の仕事のみを行うことで、スキルが向上し業務スピードも上がってきます。しかし、経理の人が総務の仕事も行うようだと、経理業務のスピードが上がらないどころか、大量の業務をこなさなければならず、業務効率が下がってしまいます。これは結果的に会社全体の業務効率が落ちる結果となります。
確かに、ホワイトカラーの人員と人件費が必要以上に多いと、間接部門の肥大化となり、会社全体の収益性は落ちます。バブル崩壊後の日本企業では、直接に収益を生み出さない間接部門が肥大化していたところが多かったため、リストラクチャリング(事業の再構築)を進めていきました。
しかしながら、管理業務の人員が少なすぎると、上記のように、逆に業務の効率性が落ち、収益性も落ちてしまいます。
従って、専門化の原則を進めるために必要な最低限の人員は揃えて、専門化を促進し、会社全体の業務効率を上げていく必要があります。
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