課業管理を行うには課業(task)を設定する必要があります。この課業の設定のためには作業研究を行う必要があります。
作業研究とは、具体的には時間研究と動作研究を行うことです。
これにより、ある業務の各プロセスにどのぐらいの時間がかかっているのか、また、どのような動作によって行われているのかを調べます。そして、この結果に基づいて、作業の時間と動作を標準化し、課業を設定します。
2.自社の業務プロセスの把握
(1)概要
テイラーの科学的管理法は、工場での作業を対象に行ったものなので、どちらかというと単純作業についての管理法といえます。
しかしながら、19世紀後半から20世紀初めと異なり、現代の企業は第3次産業が発展していますので、必ずしもそのまま当てはまるというわけではありません。
とはいえ、課業管理すらできていない企業等があるのも事実なので、企業等の生産性をあげるには、まず課業管理から始めていく必要があります。そのためには、上記のように、時間研究と動作研究が必要です。
(2)業務プロセスの可視化
この時間研究と動作研究ですが、管理業務や役務提供業務の場合は、その前に業務プロセスの可視化を行う必要があります。
具体的には、フローチャートを作成して、自分たちが行っている業務がどのようなプロセスから成り立っているのかを客観的に把握する必要があるということです。
また、このフローチャートを文書化したものが業務記述書です。
まず、このように業務のプロセスを明らかにした上で、時間研究と動作研究を行うほうが効果的といえます。
ちなみに、上場企業では内部統制監査が義務付けられていますが、大抵の企業は①フローチャート、②業務記述書、③リスクコントロールマトリックス(RCM)を作成しています。これらを俗に「3点セット」と呼ばれています。これらは制度上、作成を要求されているわけではないのですが、この3点セットを作成する実務が定着しています。なお、金融庁は必ずしも3点セットを作成する必要はないと公表しています。
3.差別的出来高給制の応用
差別的出来高給制もテイラーの科学的管理法の重要な一つです。これは課業を達成できた労働者には標準的な賃金よりも多くの賃金が支払われるのに対して、課業を達成できなかった労働者に対しては標準的な賃金よりも少ない賃金しか支払われないというものです。
ただし、これは大昔の工場の単純労働作業を前提にしたものであり、現代企業では導入することは現実的ではありません。
しかしながら、課業の達成度により従業員を評価することで、昇給や昇格に反映させるということは可能です。
この従業員の評価を昇給や昇格に反映するということは、どの企業等でも行っていることではあると思いますが、問題はこれまでに述べたように、作業研究に基づいた課業を設定していないがゆえに、その評価が客観的ではないという点です。評価が客観的でないと、従業員は不満を持ち、不信感を持ちます。そうなると、モチベーションの低下に繋がり、企業等の生産性は低下してしまいます。
従って、重要なのは作業研究の妥当性です。ここが科学的、客観的に行われないと、課業の量の妥当性にも欠陥が出てしまいます。その結果、従業員の評価についても妥当性を欠くことになります。
4.標準化と点数化
(1)主観性の排除
課業の設定は、作業研究の結果に基づいた作業の時間と動作の標準値に基づくことになりますが、ここは上記のように、科学的、客観的に行う必要があります。とりわけ、標準値の妥当性には注意する必要があります。
そして、課業の達成度に基づいた従業員の評価は客観的に行う必要があります。言い換えれば、従業員の評価においては主観性を排除する必要があるということです。
それでは、主観性を排除するにはどのようにすればよいのかということですが、参考として、ここでは全くの別ジャンルであるプロ野球について紹介したいと思います。
(2)米国球団の点数化による数値評価
現在のアメリカのメジャーリーグ球団では、選手を評価する際、主観性を排除し、点数化した数値評価を行うことが主流になっています。
具体的には、いくつかの評定基準を設けて、それぞれに点数をつけていき、その点数を合計した総合点で評価するというものです。この点数をつける際には、相対的な評価は行いません。あくまで絶対評価による採点です。
参考として、巨人軍のお家騒動で有名となった清武英利氏の『巨魁』(WAC)より一部を引用してみます。
(清武英利著『巨魁』(WAC) P231より)
当時、巨人でも、ベースボール・オペレーション・システム(BOS)という選手の評価を数値化するシステムを導入して、主観性を排除した選手評価を行うことにしたそうです。この本には、当時の様子が詳しく書かれているのですが、その中に上の図表も掲げられています。
これによれば、直球(ストレート)の平均球速が152キロ~158キロの投手は80点、また直球(ストレート)の最速が158キロ以上の投手は80点という点数がつけられます。
これを、直球制球値、防御率、与四死球率、奪三振率といった様々な評定基準によっても行い、総合評価を行うというわけです。
このようにすれば、これまでスカウトの主観により評価してきたものが、数値により客観化されます。そうすれば、主観性を排除でき、誰もが納得する評価を行うことができます。
さらには、この評価を行うことで、それまで目につかなかった埋もれた才能を持つ選手も発掘することもできます。「マネー・ボール」で有名となったビリー・ビーンのアスレチックスはこれにより強くなりました。
(3)企業実務への応用
(2)は野球の世界の話でしたが、業務の達成度を点数化することは企業実務でも可能です。例えば、上の図ではないですが、ある業務の課業を日数で設定し、課業日数で達成した場合は70点、課業日数より少ない日数で達成すれば、75点、85点・・・、逆に課業日数を超えれば65点、60点・・・という評価を行えば客観的な評価を行うことができます。
もちろん、上記のように、その前提には作業研究に基づいた標準値の妥当性が重要となります。とても達成できないノルマを課せられると従業員の心身に過剰なストレスがかかりブラック企業化してしまいます。
また、企業や業務によっていろいろな形態がありますので、全員が納得する形で課業を設定することが重要です。