1.はじめに
社会には、株式会社を始め、さまざまな人の集合体があります。監査法人や会計事務所、非営利法人である公益法人、社会福祉法人、医療法人なども人の集合体です。
しかしながら、このような人の集合体が必ずしも「組織」として機能しているとは限らず、結果として非効率な業務となり、得られたであろう利益を逸失していることも少なくありません。得られたであろう利益とは、会計上の利益に限らず、優秀な人材であったり、時間であったり、世間の評判であったりと有形のみならず無形のものも含まれます。場合によっては、いま社会で問題となっている「ブラック企業」と化してしまいます。
そこで、今回はこれまでとジャンルは異なりますが、「組織化」についての方法とその背景にある理論について記載していきたいと思います。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.「組織化」のメリット
「組織」というと何となく人間性が失われた無味乾燥的なイメージがあるかもしれません。よく「組織の歯車になりたくない」という話も聞かれますが、これは組織という概念に、このようなネガティブなイメージがあるからかもしれません。
確かに、組織にはそのようなネガティブな面があることも事実ですが、それは行き過ぎた場合であって、人の集まりを組織化することで、いろいろなメリットもあります。
例えば、役割分担をすることで、一人で時間をかけて何種類もの作業を行わなければならないところを、それまでよりも短い時間で目標を達成することができます。また、個人では達成が難しい大きな目標も、組織で行えば達成することもできます。そうすれば、金銭的な利益も増え、給料が上がる機会も増えてきます。
3.「組織化」のための理論の必要性
このように個人の集団を組織化することで、いろいろなメリットを享受することができるのですが、組織化を順調に進められるところは必ずしも多くはありません。その原因の一つは、組織化を進めたいと考えても、その背景にある理論を知らないことにあります。
組織化といっても、思いつきで行うと効果は出ません。組織化に向けては経営学の理論がありますので、まずはこれが基本になります。もちろん、人間の集団であり、さらに取り巻く環境もさまざまですから絶対的にベストという組織は存在しません。しかしながら、組織の理論を基礎にして組織化を進めるほうが、その過程で生じるトラブルやロスを少なくできます。
4.テイラーの科学的管理法と実務への応用
(1)概要
経営学の組織論にはいろいろな理論がありますが、その理論のスタートして挙げられるのは「テイラーの科学的管理法」です。この「テイラーの科学的管理法」が基礎になり、今日の組織論が築かれています。従って、「テイラーの科学的管理法」を知ることが組織化を行うにあたっては必要といえます。
(2)内容
テイラーの科学的管理法の主な内容は①課業管理、②作業研究、③差別的出来高給制、④職能別職長制、です。
ただし、これらの内容については、世の中の書物やWeb上でも詳細に解説が行われていますので、本稿では簡単に書きたいと思います。
本稿では、むしろ内容の解説よりも、(イ)これらが生み出された背景と現代の企業等との共通点、(ロ)現代の企業等がどのように実務に応用すればよいのか、を記載したいと思います。
5.課業管理
(1)意義
課業管理とは、1日に行うべき仕事量を設定して、その達成度を管理することです。
(2)現代企業との共通点
(ⅰ)組織的怠業
課業管理は、この後に説明する作業研究や差別的出来高給制と密接に結びつきます。
19世紀後半から20世紀はじめのアメリカ社会では、賃金はいわゆる「出来高払い」でした。すなわち、建前では仕事を行えば行うほど、それに応じて賃金が支払われるということです。
しかしながら、この場合、仕事をすればするほど賃金が増大するため、雇用主側にとっては大きな負担となります。そのため、雇用主は賃金が高くなると労働者の賃率を下げるという行動に出ます。これが繰り返し行われると、労働者側は「働けば働くほど損になる」と考えるようになります。このような考えが労働者全体にも広がり、次第に労働者集団においても「あまり働かないようにしよう」という共通認識が生まれます。そして、ついには労働者が組織的に働かないような行動をとるようになります。これを組織的怠業といいます。
(ⅱ)現代の企業の状況
現代の企業においても、組織的怠業とまではいきませんが、個人レベルでわざと仕事を一生懸命行わないようにしようとする傾向は見られます。
その理由は以下のとおりです。
仕事がよくできる人は、仕事にかかる時間も短く能率的に業務を行うことができます。これを見た上司は「彼・彼女は仕事がよくできる」という高い評価を行いますが、同時に、仕事がよくできるということで、さらに仕事を振るようになります。
一方、仕事を振られた従業員は、命じられた仕事を終了したにもかかわらず、さらに仕事が増えることになります。それで給料が増えればよいですが、特別手当がつくことはあまりありません。それどころか残業が増大し、しかもサービス残業となるケースも多く見られます。その結果、実質賃金は低下することになります。
これが続くと、仕事を振られた従業員は「働けば働くほど損になる」と考えるようになります。
その結果、従業員は「仕事を一生懸命やって早く終わらすと、さらに仕事を振られる。それだったら、わざと遅く行ったほうがいい。そのようにして『いつも手が一杯で忙しい』と思わせれば仕事が振られなくなる。」と考えるようになります。
これは、上述のように19世紀後半から20世紀初めのアメリカの労働者に共通するところがあるといえます。
(ⅲ)実務への応用
従業員がこのようにわざと仕事を遅く進めるようになると、会社としては大きな機会損失が発生します。すなわち、本来であれば、もっと業務が効率的に早く進んでいろいろな収益を得る機会が増えたかもしれないのに、その機会を得られない可能性があるということです。その結果、会社は成長しないことになりますし、さらには日本経済の国際的競争力も進まないことになります。
しかしながら、このようなことになるのは従業員の自覚に問題があるのではなく、会社の組織のあり方に問題があります。これは、上述のアメリカの組織的怠業を見れば明らかです。大昔のアメリカはこのような状況であったために、テイラーの科学的管理法が生み出されたのです。
そこで、このようになってしまう原因を明らかにする必要がありますが、ヒントになるのがテイラーの科学的管理法です。
上述のように課業管理は、作業研究や差別的出来高給制と密接な関係がありますが、企業がこのような状況に陥る原因は、まずこの課業管理がしっかりとできていないことに原因があります。
課業は1日に行うべき仕事量であり、いわゆるノルマです。モノを売る営業では達成すべき販売数や売上高が定められていますが、サービス系や管理業務系では、私が見たところ、一人あたりの課業を具体的、客観的に設定している会社はあまり多くありません。どちらかというと主観的に不明確な量の業務を命じている感じです。
テイラーの科学的管理法が生み出された背景には、まだまだいろいろなものがありますが、次回以降、順次説明しながら、組織改革のポイントを説明していきたいと思います。
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