これまでも社会福祉法人会計では、関連当事者の取引については注記を行うことが求められてきました。
そのため、関連当事者といっても、特に違和感を感じられることはないと思いますが、今回の社会福祉法人改革では、社会福祉法人会計基準が改正され、関連当事者の範囲がこれまでよりも拡大したので、この点には留意が必要です。
今回は、この点について述べたいと思います。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.関連当事者の範囲
関連当事者取引は、通例ではない異常な条件で行われることがありますが、このような取引は、その状況が財務諸表から容易に識別できないため、財務諸表作成会社の財政状態や経営成績に及ぼす影響を、財務諸表利用者が適切に理解できるようにする必要があります。そこで、一定の関連当事者取引については、その内容などを注記することが求められています。
今回の制度改革では、関連当事者として、以下の6つが対象となりました(社会福祉法人会計基準(以下「基準」)29条②)。
一 当該社会福祉法人の常勤の役員又は評議員として報酬を受けている者
二 前号に掲げる者の近親者
三 前二号に掲げる者が議決権の過半数を有している法人
四 支配法人(当該社会福祉法人の財務及び営業又は事業の方針の決定を支配している他の法人をいう。第六号において同じ。)
五 被支配法人(当該社会福祉法人が財務及び営業又は事業の方針の決定を支配している他の法人をいう。)
六 当該社会福祉法人と同一の支配法人をもつ法人
なお、これらのより具体的な内容については「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について」に記載されているのですが、今回は、これらの論点の説明は割愛します。
3.支配法人等について
(1)内容
制度改革により、関連当事者の範囲は拡大しましたが、特に基準29条②四~六は旧基準にはなかったものですので、簡単に内容を説明します。
支配法人とは、株式会社でいえば、親会社に相当するものです。
被支配法人とは、株式会社でいえば、子会社に相当するものです。
そして、当該社会福祉法人と同一の内容をもつ法人とは、株式会社でいえば、兄弟会社に相当するものです。兄弟会社はあまり馴染みがないかもしれませんが、例えば、X社がA社とB社を子会社としている場合、A社とB社が兄弟会社となります。すなわち、A社から見ると、B社は兄弟会社という関係になります。
(2)「財務及び営業又は事業の方針の決定を支配」の意義
この支配法人や被支配法人の判定ですが、基準29条②四、五のかっこ書きに「財務及び営業又は事業の方針の決定を支配」という文言があります。
実は、企業会計では、子会社の判定については、議決権の所有割合以外の要素を加味した支配力基準により、他の会社等の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関を支配しているかどうかという観点から行っています。
社会福祉法人会計もそれに倣って支配力基準を導入したのではないかと思いますが、そもそも社会福祉法人は持分がありませんので、必然的にこのような要件とならざるをえなかったのかもしれません。
次に、この「財務及び営業又は事業の方針の決定を支配している」の意義ですが、基準29条③では、以下のように記載されています。
評議員の総数に対する次に掲げる者の数の割合が百分の五十を超えることをいう。
一 一の法人の役員(理事、監事、取締役、会計参与、監査役、執行役その他これらに準ずる者をいう。)又は評議員
二 一の法人の職員
このように、社会福祉法人では評議員の総数において、一定の者が百分の五十を超えるかどうかで判定します。
なお、「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について」では、支配法人、被支配法人について、以下の具体例が掲げられています。
次の場合には当該他の法人は、支配法人に該当するものとする。
・ 他の法人の役員、評議員若しくは職員である者が当該社会福祉法人の評議員会の構成員の過半数を占めていること。
・ 当該社会福祉法人の役員、評議員若しくは職員である者が他の法人の評議員会の構成員の過半数を占めていること。
(3)支配法人に社会福祉法人以外の法人が該当するのか
ここで「法人」という用語ですが、基準29条では、「法人」としているだけで、「社会福祉法人」とはしていません。従って、法は、株式会社や公益法人といった法人も含めて関連当事者取引を想定しているのだと思います。実際、基準29③を見ると「理事、監事」に続いて、「取締役、会計参与、監査役、執行役」と続いています。これらは株式会社にしか出てきませんから、法は支配法人として株式会社も想定しているようです。
しかしながら、株式会社や公益法人といった社会福祉法人以外の法人の場合は、社会福祉法(以下「法」)及び同法施行規則(以下「規則」)でいわゆる「3分の1規定」が設けられていますので、支配法人に株式会社や公益法人など、社会福祉法人以外の法人が、基準29条③に該当することはないと考えられます。
すなわち、法40条④と規則2条の7六により、社会福祉法人以外の法人の役員や職員も社会福祉法人の評議員に就任することはできますが、これらの者は評議員における特殊関係者となりますので、その社会福祉法人の評議員の総数の3分の1を越えてはならないのです。
この趣旨は、社会福祉法人が、他の同一法人の利益に基づいて運営されることを避けるためのものです。特に社会福祉法人は「公の支配」のもと、強い公益性が求められますから、他の同一法人の利益のために運営されることはあってはならないというわけです。
なお、社会福祉法人同士であれば、制限はありません。ある社会福祉法人の理事、監事、職員が他の社会福祉法人の評議員になることはできますし、その人数や割合に制限はありません(社会福祉法人制度改革Q&A問109参照)。
この点を踏まえると、そもそも、法40条④と規則2条の7六により3分の1規定が設けられているのですから、一の法人の役員、例えば、公益法人の理事や監事、株式会社の取締役・監査役などが他の社会福祉法人の評議員の総数の100分の50を超えることはありえないはずです。
あくまで私見ですが、この点については条文間で矛盾が生じている感がします。実は、パブリックコメントの募集時に、この点について質問はしたのですが、残念ながらパブコメの回答には取り上げられませんでした。
従って、支配法人については、社会福祉法人はあり得るが、社会福祉法人以外の法人(株式会社、公益法人など)はあり得ない、といえるでしょう。
(4)被支配法人の範囲
最後に、被支配法人ですが、こちらも条文を見る限り、支配力基準として、評議員の総数の過半数を要件としていることから、法は社会福祉法人を想定しているようです。
そもそも、社会福祉法人では、子会社の保有のための株式の保有等は認められないとされていますので(「社会福祉法人の認可について」第2 3(2))、株式会社が被支配法人になることはなく、被支配法人の範囲も社会福祉法人に限られるといえるでしょう。
ただし、「評議員会」ということであれば、公益財団法人、一般財団法人には「評議員会」がありますので、形式的には該当する可能性はありますが、法は想定していないのではないかと思います。なお、公益社団法人、一般社団法人の場合の意思決定機関は「社員総会」です。
以上、私見ですが参考としていただけますと幸いです。