平成29年12月10日(日)に、平成30年公認会計士試験第Ⅰ回短答式試験が行われます。公認会計士試験合格を目指している弊法人スタッフも第Ⅰ回短答式試験のため試験休暇に入りました。
スタッフを激励しながら、金融庁の公認会計士・監査審査会に掲載されている過去の試験問題を見てみたところ、平成29年第Ⅱ回短答式試験の管理会計論に、こんな問題がありました。
なお、今回は、予算統制と月次決算について記載しますが、それはこの問題がきっかけです。
平成 29 年試験 第Ⅱ回短答式試験問題 管理会計論
問題11
予算管理に関する次の記述のうち,正しいものの組合せとして最も適切な番号を一つ選 びなさい。( 5 点)
ア.資本予算は設備投資予算に代表される長期予算であるが,短期予算としての総合予算 の中に組み込まれることがある。
イ.予算編成の方法を大別すると,組織階層にかかわらせてトップ・ダウン方式又はボト ム・アップ方式の 2 つの予算編成のタイプが考えられる。トップ・ダウン方式にこだわり過ぎると,各部門担当者のやる気を阻害してしまい,予算統制の機能が損なわれるおそれがないとはいえない。
ウ.予算による統制は,事前統制・期中統制・事後統制という活動に分類される。この場 合,各責任センターの予算と実績とを比較し,その分析結果を報告して是正措置を実施する活動は専ら事後統制として行われる。
エ.予算スラックとは,参加型の予算編成の過程において,部門管理者が予算の厳格度を 緩和することによって形成される予算額をいう。それゆえ,収益予算を容易に達成可能な水準に低く設定したり,費用として許容される予算額を過少に見積もることによって形成される。
1.アイ 2.アウ 3.アエ 4.イウ 5.イエ 6.ウエ
私も試しに解いてみました。
ちなみに、公認会計士試験の短答式試験は絶対評価で各肢の◯✕を判定するのではなく、相対的に考えて解答を選択するという点が重要です。これは、以前、某専門学校の講師をしていた某法科大学院の某教授の教えです。
2.各肢について
(1)アについて
まず、アですが、まあどうなんでしょう。そういうこともあるのかもしれませんが、はっきり判断できません。こういう場合は保留です。
「~することがある。」「必ずしも・・・とはいえない。」といった判断に迷う肢は無理に判定しないことです。
短答式試験は保留をうまく使うことが大事です。
(2)イについて
前半は◯です。予算編成にはトップ・ダウン方式とボトム・アップ方式があります。
そこで後半の文章を考えます。後半は「トップ・ダウン方式にこだわり過ぎると,各部門担当者のやる気を阻害してしまい,予算統制の機能が損なわれるおそれがないとはいえない。 」と記載されています。これも、確かにトップ・ダウン方式にこだわり過ぎると、上からの押し付けのようになってしまい、各部門担当者の意見が反映されませんからやる気が失せるでしょう。このような「押し付け予算」は、各部門の予算は各部門の実情を反映したものではないので、そのような予算と実績を比較して差異分析しても「どうすりゃいいんだ。もっとこっちのことを考えろ。」となるかもしれません。そうなると、予算統制の機能の一つである行動の改善につながらない恐れもあります。
そのため、◯のような気がしますが、こちらもはっきりと言い切れないのでとりあえず保留にしましょう。
(3)ウについて
こちらが、今回のブログのきっかけとなった肢です。
まず、「予算による統制は,事前統制・期中統制・事後統制という活動に分類される。」は◯です。
次に、「この場合,各責任センターの予算と実績とを比較し,その分析結果を報告して是正措置を実施する活動は専ら事後統制として行われる。 」ですが、まあ概ねそうでしょう、ということで一見◯に思えるのですが、しかし、期中で月次決算において予算実績分析も行うし、どうなんでしょう、ということで判断しにくい肢です。
この「専ら」という言葉のとらえ方が難しいですね。一般的に、予算と実績の比較は最終的には、期末時に行う予実分析が重要といえると思いますので、「専ら」といっても別におかしくはない感じもします。
ということなので、この肢も保留です。
(4)エについて
この肢は簡単です。予算スラックについて書かれていますが、後半の「それゆえ,収益予算を容易に達成可能な水準に低く設定したり,費用として許容される予算額を過少に見積もることによって形成される。」という記述が誤りです。赤字の部分は「過大」が正しいです。従って、(エ)は✕です。
予算スラックが生じるときは、部門担当者は費用の予算を過大に見積もっています。費用を多めに見積もっておくほうが、費用の予算目標を達成しやすいからです。予算目標を達成すれば、その部門担当者の評価が上がります。そうなると、部門担当者の出世や給料にも影響します。
そのため、部門担当者は達成しやすい予算を組むという「予算の歪曲化」が生じるわけです。
従って、部門予算を組むときは、部門からあがってきた予算をそのまま受け入れるのではなく、予算編成担当者は、各部門の限界を少し超えるぐらいの予算に変更させることがよいでしょう。
ちなみに、このように、予算編成担当者と各部門の予算スラックをめぐる攻防を予算ゲームといいます。
(ア)から(エ)の肢を見てきましたが、(エ)は確実に✕なので選択肢の3,5,6が消えます。
残るは1,2,4ですが、(ア)から(ウ)は保留にしてしまいました。そこで、この(ア)から(ウ)の中で、比較しながら相対的に考えると、(イ)はおそらく◯でしょう。そうなると、2が消えます。
従って、最終的には(ア)と(ウ)を比較することになりますが、(ウ)は「専ら」という言葉のとらえかたが難しいのですが、期中の予算実績分析も行われること、一方、(ア)は誤っているとはいえないということを考えると、(ウ)が消えるということになりそうです。
そうなると正解は1ということなります。公認会計士・監査審査会から公表された正解も1です。
しかし、これはなかなか難しい問題です。
ちなみに、TACの本試験特別座談会には「文意を読み取るのが難しいので、正答を2分の1まで絞れればそれで十分でしょう。」と記載されていました。つまり、間違ってもかまわないということです。
4.期中の予算統制
そこで、本題ですが、(ウ)の記載にある「各責任センターの予算と実績とを比較し,その分析結果を報告して是正措置を実施する活動」は、実務上、期末の予算実績分析のみならず、期中の予算実績分析でも行われます。
目的は色々ありますが、主として差異分析により、各行動の改善につなげることです。
一番簡単な例は、費用の場合は経費節減活動です。例えば、水道光熱費が月次予算を上回った場合、長時間残業により電気代、エアコン代がかなりかかったことが原因だということがわかれば、残業時間を極力減らして、電気代、エアコン代を減少させようか、というものです。このような改善を予算実績の差異分析から導き出します。
ただ、経費節減活動は正直、あまり劇的な効果は出ないことが多いです。費用を劇的に減少させるには業務プロセスそのものを変革させることです。
このような例があります。
あるお菓子メーカーは、原料メーカーから工業用チョコレートを固形で購入していましたが、あるときから原料メーカーは液体のままタンクローリーでチョコレートを納品するようにしたそうです。
そうすると、お菓子メーカーでは、固形チョコレートのときと比較して、包装をほどく手間と人件費、固形チョコレートを溶解するコストと時間が劇的に減少したそうです。原料メーカーもチョコレートを冷やして固形にするためのコストと時間が減少しました。
もっとも、この事例は費用減少の例ではなく、お互いが満足を得られるように工夫した事例なのですが、費用の減少の参考としても見ることができます。
この事例から分かることは、創意工夫によって、業務プロセスを変革させていくことが必要だということです。
このような、行動改善、ひいては業務プロセスの改善を行うためには、まず大前提として月次決算を行うこと、そして、翌月の早い時期に予算実績分析を行うことです。
このとき、注意すべきは、月次決算は現金主義で行うのではなく、発生主義会計で行うことです。
具体的には、未収、未払の計上、毎月の棚卸、減価償却費の月次計上、賞与引当金や退職給付引当金といった人件費に係る引当金の月次計上などです。
このように、月次決算を発生主義会計で行い、早期に予算実績分析を行うことで、期中に活動の改善につなげることができ、期末に向けて予算達成に向けた行動を取ることができます。すなわち、予算上の利益を達成するすることにつながります。逆に言えば、月次決算で予算実績分析を行わなければ、活動の早期改善が行われないことになり、期末付近の決算見込時に慌てることになります。
あと、余談ですが、この予算についても期中を通して硬直的ではなく、環境変化に応じて予算を改定していくことも必要です。
以上、期中の予算統制について見てきましたが、株式会社のみならず、公益法人は財務3基準(特に収支相償)、社会福祉法人は社会福祉充実残額の有無の判定といった法令上の要求を満たす必要もありますので、期中から予算実績分析を行い、行動の改善につなげていくことが重要です。
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